水平線の向こうに13

回想の続き

俊はふてくされて、サンダルでアパートの周りをほっつき歩いた。       

マリのヤツ、理論がメチャクチャだ‼️確かに、マリがマスターにお金を貰って無かったら俺の足は今頃こんなに動かなかったろう。仕事も出来たんだか………だからって他の男の子供とわかってて、これからもズット育てろってのか⁉️………しかも、アンナクズみたいなヤツの子供……イヤ…でも今までは可愛がってた。愛情が無いわけじゃない……              心の中で何回も同じ事を思いながら俊はふとした事を思い出した。        

 そうだ、アツシだけ算数が得意だ………マリも俺もお兄ちゃんも運動とか歌を歌うとか絵を描くとかは得意だけど、算数も国語も苦手だ。アツシはお兄ちゃんの教科書もたまに見て笑って解いてる。中学は算数じゃなくて数学だっけ……俺は、もう数学なんて全くワカンネエ……取り柄なのは、この身体と感性だけだ………マリは……マスターの金は、それを救ってくれたんだ………アツシは顔だけじゃなく中身もキット会長さんに似てんだろうな………アツシの将来は………俺らといても伸ばせんのか?       でも兄弟は仲がいい……どうやって説明すんだ………マリが納得するとは思えないよ…………

線路に沿って張られた鉄条網の側を歩きながら同じ事をグルグルと考えたが、結局どうしたらいいのか自分では全く解らない。電車の走る音が聞こえる。始発電車が俊の髪をなびかせた。

スッカリ夜が明け通勤通学の人達が行き交う中、俊は仕方なく家に戻った。家の中はシーンとしてる。背後からガチャっとドアを開ける音がして1番下の女の子を保育園に送ってきたマリが帰ってきた。

…………帰って来たんだ………    マリが俊を睨みつけながらボソッと言った。           アンタさあ、その引き取りたいって言ってるヤツの所にアタシを連れてイキナ‼️         ……   イヤ、仕事が………        ハアっつ⁉️いま、仕事⁉️そんな事言ってる場合かよっつ‼️今回は一人現場なんだから、その後イキャーいいんだよ‼️            俊は自分で決められないなら流れに任せるしかないと思い       解った‼️       と言い、隆一に電話してアポをとった。

2人でマトモな服に着替えて会長と隆一が待つ、会社の応接室に車で向かった。その間、2人は何も話さずマリは何か決心したような表情で前を見ていた。

失礼します。         俊はドアを開けてマリと応接室に入った。         お忙しい所、急に申し訳ありません。          と俊は頭を下げたが、マリは挨拶もお辞儀もせず、物凄い目で会長と隆一を睨んでいた。

会長は                鑑定結果をご覧になられましたか?愚息がご迷惑をおかけして申し訳ありませんね。是非、アツシ君を当家で引き……………       最後まで言う前にマリが遮って             あのさあ、アンタ、金持ちだか会長だかしれないけど、アツシは私とダンナの子だから。300万だってくれるっていうから貰っただけだから。鑑定結果⁉️ハア⁉️笑わせないでよ。そんなのなんか意味あんの⁉️          会長は光る鋭い目でマリを睨んだ。隆一はソンナ祖父の表情を見るのが初めてだったので驚き、マリと祖父を交互に見た。

マリさん、と言ったかな……失礼だが、君といるより当家に来た方がアツシ君の教育にもいいんじゃないかな……?       鋭く光る目でマリを見て言う。俊も隆一も臆したが、マリは全く意に介さないで、             ハア、人んちの子に余計なお世話なんだよ、ジジイ。息子はタダのバカだけど父親はマジクズじゃん。                  俊は慌てて、         マリ、言い過ぎだよ‼️もうやめろ‼️           とマリの肩を掴んだ。マリはそれを振り払うと           アンタもアンタだよ‼️こんなヤツらの言いなりになって‼️なんで、アツシは自分の息子だって言えないんだよ‼️              ……だって、だって血が繋がってないんだぞ⁉️               仮にそうだとしても、だからなんなんだ⁉️11年間一緒に育てたのが、そんな事で壊れんのか⁉️ソンナ些細な事、どうして気にすんのよ‼️              

 男3人は絶句した。この女にとって、ソンナ事は些細な事なのだ。些細な事だと思っている人間に、それがすごく重要だと解ってもらうにはどうしたらいいのか⁉️確かに女は自分が産んだ子は自分の子だ。

話になりませんな……マア、気が変わったらいつでも思い出して下さい………         会長は怒りを押し殺して低い声で言うと俊はすかさず                失礼いたしました‼️                  と言ってマリの腕を掴んで応接室を後にした。

オイ‼️放せよ‼️アンナヤツらにはビシッと言ってヤンなきゃ舐められるんだよ‼️       いいから‼️もう黙れ‼️…たっく………               放せよ‼️絶対にアツシは渡さないかんなあ〜〜‼️           マリは俊に引きずられるように廊下を歩きながら応接室のドアに向かって声の限りに叫んだ。

車に戻って 俊は大きく溜息をついて             ………マリ、これからどうする気なんだよ…………               と力無く聞いた。           あの人達は俺のお得意様だぞ………しかも俺のような学歴がない人間が使って貰えるような会社じゃないのに………                 …………だって…………アイツのあの目…………本当にムカついた………人を虫ケラみたいに扱いやがって…………               マリ、いい加減にしろよ‼️どこが、そんな扱いなんだよ‼️男らしい責任ある提案だったじゃないか‼️              マリは心の底から驚いたような顔で大きい目で俊を見た。         ………アンタ…………本当にそう思ってんの…………⁉️                思ってるさ‼️マリはこのまま前みたいに暮らしたいみたいだけど、どう考えたって無理だろ⁉️アツシはソリャ可愛いとは思うよ。でも俺の子じゃないんだぞ⁉️俺は、会長さんに引き取って貰って、あの会社の重役にでも育ててもらった方が俺らといるよりアツシにはいいと思う。       マリは大きい目を俊から離し、そのまま下を向いた。涙をボタボタ垂らしながら何も話さなくなった。

次の日、何も話さないまま俊は仕事に行って、夜遅くに帰って来た。アパートのドアを開けて俊は絶句して立ちすくんだ。マリと子供達と身の周りの荷物が無くなっていたのだった。

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>