アツシは翌朝、日の出と共に目が覚めた。母親と男はまだ熟睡している。アツシは必要な物を学校のカバンに押し込み制服を来て逃げるように家を出た。
アツシは学校が好きだった。ここに来ると嫌な事が忘れられる。それに食べ物が豊富だ。アツシはいつも給食当番を友人に代わってやっていた。何故なら、余ったパンやオカズを収穫できるからだ。特に食パンは大量に余る。食パンは2枚セットでビニール袋に入っているから、5個ぐらいゲットしておけば、カナリ飢えをしのげる。女子はほとんど食べない。 私、食パンタベレナイ〜〜。 などと大きい声で言うのだ。
みんな、グルメだな。
給食室に片付けに行った時、給食着の下からカバンを取り出し、目にも止まらぬ早技で詰めるのだった。今日は昨日収穫しておいた揚げパンが机の中にあるので、誰も来ないうちに食べるのだ。教室に行って、学校のプリントに包んだ揚げパンを取り出してモグモグ食べた。牛乳もいつも大量に余るので飲み放題だ。
アー、なんて幸せなんだ。
食べ終わって、匂いを消すため窓を開けた。しばらくするとクラスメートがやって来た。女子の一群だ。 ねーねー、今日さー身体測定じゃない‼️私、体重減らすためにジャンプしながら学校来たよ〜〜‼️ えーマジ⁉️私もやればよかった〜〜 などと大声で喋っている。ナゼ、あんなに密集しているのに、大きい声で話すのか⁉️ 摩訶不思議だとアツシは思った。思いながら、ハッとした。 身体測定ってヤバイだろう‼️ アツシはこの頃風呂に入ってない。さりげなく、教室から出て外水道に行き誰も見てない事を確認するとパンツ一丁になり、ワイシャツに石けんをつけ、時速60kmぐらいの速さで髪と体を洗った。少し水が冷たかったが、 修行‼️修行‼️修行‼️ と唱えながら我慢した。
洗い終わって髪とワイシャツを絞り、又着て、授業が始まるまで30分ぐらい外にいた。生乾きだけど、まあいいかと思い教室に戻った。教室はみんな大騒ぎしておりアツシの事は誰も気に留めなかった。
身体測定になって体重測定の時に、養護の先生が アレ、君………随分と身体にアザがあるね〜〜。誰かに殴られたの⁉️ イエ………… 君、チョット、保健室に着て。 メンドクセーな〜とアツシは思ったが、もしかしたら、何かくれるかもしれないと思いついていった。養護の先生は担任の若い女の先生も呼んで、アツシのアザを見せた。
ホラ、酷いでしょう⁉️
担任は、どうしたの⁉️と少し涙目で聞いてきた。 あー大丈夫です………。 お友達にやられたの⁉️ イヤ違います……… カナリの沈黙の後に もしかしたらお家の方に…………
アツシはメンドクサクなって、 イヤホントどうでもいいんで。 と言って勝手に教室に戻った。それっきり担任も話しかけてこなかったのでアツシはそんな事があった自体忘れて、給食をゲットすることだけに神経を研ぎ澄ませていた。
イヤ〜〜今日も大漁だった。アツシはニコニコしながら公園に行き独りで遊んだ。早く帰ると碌な事がないからだ。周りも真っ暗になったころ仕方なくアパートの方へ歩いて行った。角を曲がると聞き覚えのある声が聞こえて来る。イヤな予感がした。ヤハリアパートの前で怒鳴っているのは母親と男だった。そして泣いている若い女の担任。
あー‼️そんんじゃーアンタは私がいつもアツシを殴ったり蹴ったりしてるってのか⁉️ お、オイラも疑われてんか⁉️ オメー‼️警察に突き出せや‼️ ……アノ、イヤ、そうでなく………アツシ君の、身体に………
アツシはその様子を見て、衝撃を受けた。今、家に帰れば、どんな目にあうかはカンタンに想像がついた。 チクショー‼️ なんで、余計なことすんだよ‼️ アツシは心で叫んだ。男がアツシに気づいた。
オイ‼️帰って来たぞ‼️ 母親がアツシを凄い形相で睨み、叫びながら走って来た。
アツシ〜〜‼️テメーふざけやがって〜〜‼️
ヤバイ、アツシは咄嗟に踵を返し、もときた道を全速力で走り出した。兄もアツシも運動神経はバツグンだった。アツシは特に足が速かった。あっという間に3人の声は聞こえなくなった。アツシは走りながら考えた。 もうダメだ。ここにいてもナンニモ解決はしない。なんとかお兄ちゃんを探し出すんだ‼️ とりあえず、教室に戻り今日ゲットした給食をカバンに詰めた。教室からでる時、 誰だ‼️ と男の先生に声をかけられた。 アツシは立ち止まり、考えた。 この人にワケを言ってお金を借りよう。お金が無ければお兄ちゃんは見つけられない。 ありったけの演技力で泣きながら、中年の男の先生にワケを説明した。途中、先生も泣き出したので、アツシは心の中で いい人だな… と思った。 先生、必ず返すから、お、おお金を貸してください………… わかった‼️ と言うと、職員室にアツシを連れて行った。職員室には誰もおらず、先生はサイフを出すと入っていたお金を全部出すと学校の封筒に入れアツシに握らせ、 いつか、立派になって返してくれ。 と言った。 ありがとうございます…………先生、ありがとうございます…………親が来るかもしれないんで、僕もう行きます………… 先生は黙ってうなずいた。
正門から出ようとしたけどイヤな予感がしたので裏門を乗り越えようと校庭を走っていると、母親と男の叫び声が背中の方から聞こえてきた。アツシは振り向かず凄い速さで裏門に飛び乗り向こう側にジャンプした。